夜はいく空間を越えて

欲望は渦巻く、次元の狭間で

純なる想いはどこまでも天馬の如く駈けていく

しかし

疑念のこもった想いはその場に留まるしかできない



[想いは交じることなく平行線をどこまでも]



 オトウト・・・あいつはどこにもいなかった。

ミルク色の光が差す前の、闇とスミレ色が溶け込む空の湖

街に目を向ける。窓にはまだ精霊達の光は見えない。

もしかして昨日の女と・・・



「っく、そうだよなぁ・・・そうに決まってる」



 俺の気持ち伝えておけばよかった・・・

ポケットから、小さな装飾品をとりだす。



宇宙(ソラ)色の石がはめ込まれた、指輪



 俺はあいつに内緒で一つだけ、持っていた。

あいつに気づかれないように、隣町の細工屋で創ってもらった。

この2,3年間、押し殺してきた俺の想い。

その想いは全てこれに託した。

そして、これは誓いの証。

いつまでも、いつまでも、俺はお前の傍にいるという・・・

しかし、その想いは渡すことも叶わず

夢の朝霧のように、朝露すら残さずに消えていった。



指輪の石の部分に、軽く口付けをする。



「愛している」



閉じ込めていた言葉

今檻から出してやろう

どこにでも行くがいいさ

しかし、もしまたどこかで出会えたときは

優しく微笑みかけてくれないか?

そのとき、俺は・・・・・



そっと、地面に指輪を置く。

荷物を肩にかけ、俺は後ろを振り向き歩き出した。

さよならを言いたくない心境ってのは、単純で複雑なんだな















「ん、うう…ん…」



 身体にあたる空気が、いつもと違うような気がして目が覚めた。

まず目に飛び込んできたのは、石造りの壁・・・

どう・・・して?

飛び起きて辺りを見回す。

スゥにいちゃん?スゥにいちゃん?!スゥにいちゃん!!?

どこっ?!ねぇ、どこっっ?!

青暗いこの部屋、この部屋はダメっ!

ダメッ!!ダメだよぉ・・・・



「やっと目が覚めたか」



 背中から声がし、助けだと思い振り向いた。

しかし期待は泡になっただけだった。

 なに?なんなの、この人。

鴉色のマント、闇色のスーツ、灰色に近い肌の色。

それ以外は普通の人間のようにも思えるが

その男のまとっている空気が、人ではない者ということ語っている

怖い・・・こわい!!

逃げようとした、しかし進行方向にあったのは

冷たい壁。



「逃げようとしても無駄だ」



 不気味な男は、鋭い靴音を響かせながら近づいてくる。

凄まじい威圧感、身体が自然と後ずさりをする。

背中に壁の感触がした、いつの間に・・・・

男は僕を壁際まで追い詰めたことに満足したのか、

にやりと、鋭い牙をちらつかせながら笑った。

そして僕の服の襟元をぐっ、と乱暴に掴み引き裂いた。

その勢いで僕は崩れ落ちた。

しかも勢いに崩れ落ちたのは、僕だけではなかった。



ネックレスが・・・!



 宇宙(ソラ)色のネックレスが宙を舞い、男の手の中に堕ちた。



「なんと素晴らしい輝きだ・・・」

「返してっ!それは僕のなんだよっ!!」



 男がいやらしい目つきで、ネックレスを見ている。

とり返そうと必死に男にしがみついても、身長差がありすぎて

全く届かない。



「返してっ!返してぇっ!!」

「煩い!!」



 思い切り顔を殴られ、また床に崩れ落ちる。

そのときのショックで、僕はイヤリングまでも落としてしまった。

男は勿論それを見逃さなかった。



「ほほう、まだこんな素晴らしいものを持っていたのか」

「やめて!それは、それは僕がスゥにいちゃんにっ・・・ああっっ!!!」



 床に落ちたイヤリングを拾おうとした手を、思い切り踏みつけられた

必死でもがいても、手は抜けなかった。

男は羽のもがれた虫のように、もがく僕を見下し

嘲け笑ようにイヤリングを拾った。



「やめてぇ、っ、返して!それはスゥにいちゃんのなっ・・・!!」



 もう片方の足で、顎を思い切り蹴られた。

その瞬間に、踏みつけていた足をどけたのか

僕の身体は吹っ飛んだ。



「いい加減にしろ、幾ら寛大な私でもあまり煩くすれば首の骨をへし折るぞ」

「っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…そのイヤリングッ、返してぇっ・・・・」



 床に叩きつけられた衝撃で、呼吸器官が一瞬止まった

息が苦しい、蹴られたときに口を切った、鼻を打ったらしく

鼻血も出ている、でもイヤリングが先!

あれは、あれはスゥにいちゃんの為に、スゥにいちゃんにあげる為に

造ってもらったんだから・・・!!



「返してぇ、返してぇっ・・・!」



 男の足にしがみつき、何度も嘆願する。

  「いい加減にしろ!」と、何度も殴られた。

けど

僕にはっ、僕にはっ、イヤリングのほうがずっと大切なんだ!

あのイヤリングには、僕の精一杯の気持ちが詰めてあるんだ!!

スゥにいちゃんが大好き、ずっと一緒にいたい、ずっと

ずっと、ずっと、ずっと大好きだよ!って気持ちを・・・



「精一杯、詰め込んだイヤリングなのぉっ…!!」

「っ、よかろう。そこまで言うなら返してやろう・・・

 但し、破片の一粒まで拾えたらいいがな!」



え・・・?破片・・・?!



「やめて!」と、制止の声が響く前にイヤリングは

粉々に握りつぶされてしまった。

目の前にキラキラと落ちていく宇宙色の欠片・・・



「いっ…ああああああああああっっっっっ!!!!!」



 スゥにいちゃん!スゥにいちゃん!!スゥにいちゃん・・・・・・・っっ!!!

 もう限界だった、溢れるのを堪えていた雫たちは

一斉に瞳から零れ落ちた。



「おお!」



 男が歓喜の声をあげた。

悔しいっ・・・泣きたくなかったのにぃ・・・・っ!



「あの宝石はキサマが創りあげていたのか!成る程、そうか涙から・・・」



 男はまた不気味に嘲笑する。

僕は涙がもう落ちないように、涙を拭おうとすると

男は凄い勢いで、たった片手で僕の両手を押さえた、

そして、残ったもう片手で僕の左目を押し開かせた。

閉じないようにするためだ。

瞬きもできず、ずっと目を開きっぱなしにされる。

足蹴にしてやろうと思っても、その巨体が僕の身体の動きを封じる。



「っあ、あぁっ、うぁぁっ・・・・」



 僕の意思に関係なく、無理やり押し開けられた瞳から

涙が零れ落ち、石になっていく。

―いやだ、いやだっ!この石は全部スゥにいちゃんのモノなのにっっ!!



「なんと美しい宝石たちだ。これほどの輝きは、どの宝石を捜しても見つからないぞ」



 輝きなんていらない、お願い・・・

僕をここから帰して。

僕をスゥにいちゃんのところに返して・・・



 悲鳴にならなかった悲鳴を最後に、僕の意識は闇の海に沈んでいった。





「おい、おいっ!」



 誰?僕を呼ぶのは?



「おい!」



 優しい声、スゥにいちゃん?

僕の眼に映ったのは、綺麗な若葉色の髪の毛

スゥにいちゃんだ!




「やっと、目が覚めたか」



 やれやれと一言いう、嬉しい・・・スゥにいちゃんだぁ・・・

あのね、スゥにいちゃん!僕スゥにいちゃんとメルヘン王国に行きたいの!!




「よし!なら今すぐ準備するか?」



 
うん!あとね、これイヤリング!スゥにいちゃんに貰ってほしいの!



「へぇ、綺麗だな。本当に俺にくれるのか?」



 うん!あとね、あとね、僕スゥにいちゃんにずっと言いたかったの




「何だ?」



 僕、スゥにいちゃんのことが大好き・・・

普通の好きとは、少し違う好き・・・

特別な好き・・・



「ああ、俺もそうだよ」



 本当!!



「ああ、ずっと傍にいるからな」



うん・・・ずっと一緒だね








「っ・・・ん」



 視界が広がる。

また石の壁・・・

夢。ああ、夢だよね

当たり前だよね。

スゥにいちゃんが僕のことそんな風に見てくれてる訳ない

逢いたいよ、スゥにいちゃん・・・

ジャラ

身じろぎをすると、嫌な音が耳に入った。

両手両足に、重い鉄枷。

完璧に拘束された・・・

ギィ・・・鉄の扉が重い音たて開いていく。

またあの男がきた。



「さぁ、姫君。楽しい余興の時間でございますよ」

「僕はお姫さまじゃないんだけど・・・」

「これは失礼。まだ発育途中かと思いましてね」



 そう言ったあと、破かれた服の間から見える胸元の肌を

いやらしい手つきでなぞった。

触らないでよ・・・!

僕が男だっていうのを、判っててやっているから腹が立つ。

そんなときだった、みゅーみゅーと、なにかの鳴き声が聞こえた。

男のポケットがもぞもぞと動いている。

そして、その動くモノはひょっこりと顔を出した。

僕は目を見開いた。



ソレは小さな仔猫だった・・・・



―to be continue―


舞台はメルヘン王国に突入しました。
暴力描写がいくつか入り始めたので、
苦手な方はご注意下さい。


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