助けて

助けて!

助けて!!



何度も叫んだ言葉

何度も・・・そう何度も



[傷]



男のポケットから覗き出た、真っ白で可愛い仔猫。

いけない・・・この子はここにいちゃいけない・・・

男はポケットから猫を取り出し、宙にかかげた。

まだ目もあまり開いていない仔猫は

みゅーみゅーと、母親を求めている。



「やめてっ、やめてぇ!!!」



 何をしようかなんて判らなくとも、予想はつく

こんな最低な男のすることなんて・・・

すると男は、仔猫をそっと僕の目の前に持ってきた。

仔猫は僕に向かって鳴いている。

男は何もしていない。

僕は動ける範囲で腕を伸ばし、仔猫の頭を撫でる。

仔猫はぐるぐると喉を鳴らす。

まだミルクの匂いを漂わせる、小さな仔猫

君も大切な人と引き離されたんだね引き離されたんだね・・・

大切な人―母親―と、僕もそうなんだよ

でも、君はなにも知らないんだろうね

何も判ってないんだろうね・・・・・

羨ましくて可哀想だ

そんな考えが過ぎった刹那、仔猫は

潰されたヒキガエルのような声をあげ、身体が二つになった

縦に引き千切られた。

鮮血が飛び散り、僕の顔にもかかった。

真っ白な綿毛は、赤黒く染まった。

内臓―腸だろうか?―が下にボトッ、と落ちた。

脳味噌がみえ、それも少し地面に落ちる。

目を覆いたくても、手は拘束されている。

目を閉じたいはずなのに、瞼が動かない。

男は笑う。狂ったように。

今度は男の足元で鳴き声がした、いつの間にか大きな白い猫がいた。



母猫だ



直感的にそう思った。

母猫は男の足元で、仔猫を求める。

何度も甲高い鳴き声で、仔猫のことを。

男は母猫の鳴き声を不快に感じたのか、またなにか

思いついたのか、疾風のような勢いで母猫の眼をえぐった。

男は仔猫だったものを、床に叩きつけた。

両の目の光を失った母猫は、ふらふらとした足元で

仔猫だったものに寄り添う。

我が子が肉塊になったのも知らず、母猫はみゃあみゃあ

と、気遣うような声で仔猫だったものを舐める。

母猫の真っ白な毛が、仔猫の血で汚れていく

しかし、それを嘲け笑うように男は仔猫と母猫を

踏み潰した。



「うぁっ・・!」



 耐え切れず、僕の口から悲鳴がでてしまった。

男はくっくっく・・・と、喉で笑う。

楽しんでいる。



「どうですか、姫君?実に楽しい余興でございましょう?」

「っふ、うっく、うあぁっ」



 堪えても、堪えきれずに涙と声が零れ落ちた。

叫んでも何もならない、泣いたってこの母子が生き返るわけじゃない

むしろこの男を喜ばせるだけ。

でも、でも、でもっっ・・・

涙は止まらない、そして石ができていく

男は喜ぶ。

そして、男はまた遊び道具を持ってくる

僕はそのたびに泣き叫び、男を喜ばす。

何日も何日も、命の冒涜が続けられる。

だけど、何度も続けられればさすがに僕でも

涙をこらえるくらいはできるようになった。

このまま痛みつけられて、殺されればいい・・・

そう願った。

僕が泣かなくなった事に気づいた男は、暫く部屋に来なくなった。

処刑の準備でもしているのだろうか?

それとも拷問・・・?

どちらにしろ、死ねるかもしれないと期待をもったとき。

男はなにか袋を片手に、またやって来た。



「ごきげんよう、姫君」

「だから姫じゃない、って言ってるでしょ」



 これは失礼。と、また馬鹿にしたように笑う。

何をされたって、僕はもう泣かない。

心の中ではそう誓っているのに、妙な不安が僕を包み込む。

あの袋が僕の不安を掻き立てる。

真っ黒な袋。

なにが入っているの・・・・?



「ほら姫君、プレゼントですよ」



 もう、反論するのも馬鹿らしく思って

男が床に投げたものに、目を向けた。



「っ・・・!」



 声が出かけた。



それは、人間(ヒト)の舌。



引き抜かれた人間の舌。

誰のなの、コレは誰の舌なのさ!?

嫌な考えが脳裏をかすめた。

まさか、スゥにいちゃんの・・・

頭を何度も横に振り、そんな考えを振り払う

違う!違う!違う!!!

まだ血が滴っている赤ピンク色の舌

スゥにいちゃんのじゃない、スゥにいちゃんのじゃ・・・・

こんなに血がでてたらやっぱり死んじゃうよ・・・ね?

だったら、抜かれた相手は・・・



「いやぁっ」



 耐え切れず声をあげてしまった。

判ってる、判ってるのに、スゥにいちゃんって決まったわけじゃないのに

でも頭の中では、舌を引き抜かれ血塗れのスゥにいちゃんがいた。

やだよ、やだよぉ、スゥにいちゃんが死んじゃったら

僕は一人。

すると男が袋の中から、なにか丸いモノを取り出し

僕のほうに転がした。

それは・・・・



「いっ、あ、うっあああああああああああぁぁぁぁっっっっ!!!!」



 半狂乱の悲鳴。

それは、生首。

僕のネックレスとイヤリングを細工してくれた

女主人の。

彼女は話してくれた、今度結婚するのだと。

相手は細工師のまだ見習いらしい、

結婚を申し込むとき、自分で細工した指輪をプレゼントしたらしい

細工師としてはまだまだ未熟だったが、

彼女は最高の婚約指輪だと言っていた。

その話を聞いた時は、スゥにいちゃんに指輪を贈りたくなった。

それ位嬉しそうな顔だった。

それ位幸せそうな笑顔だった。

それが今、僕の目の前で血塗れで人形のように

転がっている。



「うっ!」



 その場にうずくまって吐いてしまった。

今の今まで吐かなかったほうが奇跡なんだけど。

これだけは、もう、駄目だった。

男は僕に近寄り、顎を持ち上げて



「馬鹿者。吐いていたら、折角の美しい宝石が汚物まみれになるだろうが」



 そう言って、僕の口を塞いだ。

手が汚れるのが嫌だったのか、口を押し付けに来た。

普通逆じゃないの?なんて、考え本当は真っ先に浮かばないと

駄目なのに、何よりも先の浮かんだのは



スゥにいちゃんとでもしてないのに!!



だった・・・。

ナニ考えてるんだろう。変だね、僕。

男のほうもナニを考えたのか、舌を絡めに来た。

なめくじのような感触で気持ち悪い。

あまりの気持ち悪さと抵抗の意を込め、僕は男の舌を噛んでやった。

千切れはしなかったけど、血はでた。

僕の口の中で、血の味が広がる。不味い。

さすがに男も痛かったのか、僕から唇を離した。

とはいえ、こんな事をしたのだから

当然殴られると思いきや、男の様子がどこかおかしい。

紫の瞳から徐々に青みがひいていく、猫の眼のように

瞳孔が小さくなっていく。

漆黒の髪が、輝きを失わずに徐々に色味だけが失っていく。

口元から覗く鋭い牙が野性味を帯びた。

そして、その牙は一気に僕の首筋にいき、噛み付いた。



「ああっっ!!」



 いきなりの感触に思わず声が漏れた。

僕はそこでやっと、この男の正体の気づいた。



吸血鬼(ヴァンパイア)



どうして気づかなかったんだろう。

だけど、この男の容貌は僕のしっている闇の使いとは違った。

僕の知っている吸血鬼は、背中に紅い翼があった。

そう誰かから聞いた。

じゃあ、どうしてこの男には翼がないの?

そんな考えは次の瞬間吹き飛んだ。

男が血を吸い始めた。



「っあ、やっ、やあぁっ・・・!」



 不思議な衝撃が身体を駆け巡った。

身体が熱くなる。

頭の中にまで、熱が浸透したのか

真夏日の太陽の下にいるような、けだるさを感じた。

視界が歪む、光が曲がっていく、なんだか

全てがムショクトウメイな世界に変わっていく。

歪む視界の中に見えたのは、あの男の驚いた顔。



なにかが、変わっていく感じがした。

光の屈折現象が起こっている。



消える・見えなくなる・変わる・・・・消える?!



 何かを感じた瞬間、乾いた音が部屋に響いた。

歪みが消える、ムショクトウメイに色がついていく、光が正常に反射する

なにが起こったの??

珍しく男の表情が歪んでる、なにかに驚いている。

ナニに?



「貴様、透明人間か・・・」

「とうめい・・・にんげん」



 よく判らない、確かに僕の肌は少し透けている感じもする。

でもそれはほんの少し、よくよく見ないとスゥにいちゃんでも気づかない。

それに僕は透明になったりしないよ・・・何を言ってるの?

呆けた顔で男を見つめると、男はクククと喉を鳴らしながら

僕を床に押し倒した。

なんかデジャヴュ。



「そうか、そうか、貴様があの。化け物でなければヒトでもない

全ての世界から隔離された真の異質の生き物か」



 なに、なにソレ?!

全ての世界から隔離?真の異質?



「と、いうことは貴様、昔人体実験にでも遭ったか?」



 動揺の色が隠せなかった。

どう・・・して、わかったの

思い出したくない、嫌な記憶。

僕の動揺を肯定と察した男は、再び無気味に笑う。



「貴様らの種族は、人間の手によってヒトとはかけ離れた者になったあと

我らのような高貴なものと血を交わすと、

何故か己の存在を自由に消せるようになれるのだ。

我々はそのヒトでも化け物でない存在に敬意を表してこう呼ぶ

“透明人間”とな。さすがの我も初めて見たぞ。」



 透明人間?僕の身体はちゃんと見えているのに!?

さっきの感じ、もしかしてあれが消えていく感じなの?

世界が歪み、色がなくなっていく、あんなの嫌だ。



「涙の宝石の上に、透明人間・・・これはいい見世物だ」

「え・・・」



 その一言と同時に、僕の意識は再び闇の中に沈んでいった。



 ―to be continue―


動物虐待や残酷な描写を使っていますが
実際あったら嫌です、こういうのは二次元の話だけで充分です;
どちらかというと裏行きのほうがいいのですが、
この話を飛ばすと繋がらないので、表においています。

次も裏にいくかいかないかの危ない所です


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