彷徨うことを恐れはしない 人を殺すことに戸惑いはしない だけど、 この胸の空白は少し寂しい [―出会いとは偶然なのか必然なのか―] 空に流れる青い湖。 そこを泳ぐ白い綿魚。 その湖の底に俺は座り込んでいる。 柔らかな草の感触が心地よい。 浅い風が吹き、緑を揺らす。 俺の若緑色の髪も草のように揺れる。 なんて平和なのだろう。 なんて平穏なのだろう。 今の情景を聞いた者は、ほとんどこんなことを思うだろう。 しかし、それは全くの見当違い。 全くの正反対。 俺の視線の先にある、丘の向こうにある小さな街では 謎の奇病騒ぎで大混乱している。 その奇病というのが、若い女性が顔面蒼白で 口から泡を吹き死んでいるということだ。 毒を盛られたようでもないし、死ぬ前の日にはピンピンしていた。 それなのに、こんな悲惨な姿で死ぬなんて。 謎の伝染病か?神の崇りか?悪魔の呪いか? ここ数年、あちこちの街や村ではその話で持ち切り。 正直言って、くだらない。 だってその原因は、 俺なんだから。 今から約12,3年前、まだ俺が8歳くらいの頃 俺は変な奴らに身体を変えられてしまった。 人間兵器という、毒を振りまく危ない奴に変えられた。 正直、ショックだった。 なにせ肌は青くなるわ、目の色は赤くなるわ、 確実に人間ではなくなっていたのだから、それなのに 実験は成功した! なんてバカ喜びしている奴らがいて、俺の怒りは頂点を越えた。 自分達が造りたかった人間兵器の出来を、直に教えてやった。 俺の周りに毒の霧がたちこみ、奴らを一瞬にして地獄に送ってやった。 とはいえ、最初はコントロールがきかない等もあって 俺自身の左目もその毒で潰してしまった。 その上、俺以外の実験材料にされていた大半の奴らも殺してしまった。 結局、実験に成功したサンプルは俺一人で 後の奴らは俺の毒で大半死んでしまい。 失敗作と判断された奴らは、薬を投与され地下室に放り込まれた。 あの実験の生き証人は、俺一人ってワケだ。 それからずっと、辺りを彷徨った。 毒は段々とコントロールできるようになって 今では、俺の体液に触れた奴だけが死んでしまうようになった。 とはいえ、毒に対する免疫が薄い奴は俺に抱きしめられただけで 死んじまうけどね。 そして今では気まぐれで街などに行き、手ごろな女を捕まえては抱き 天国へご招待ってワケ。 自分でいうのもなんだけど、俺は結構男前なほうなので 少々貞操のかたい女でも、あっさり口説けてしまう。 おかげで、色んな女を食えている。 しかし、そんな俺の気まぐれで街のほうでは謎の奇病騒ぎ。 まっ… 罪悪感なんて微塵もないけど 空色の湖が朱色にうつり、漆黒に染まった頃 いつも、俺は街に行く。 しかし、今日は行かなかった。 まぁ、こんな時もある。自分が気まぐれなのは知っている。 そして、俺の気まぐれがまた働いた。 先ほど指を草で切ってしまい。浅く血があふれている。 俺は思った。 この血を飲めば、俺も死ぬのか? 自分の片目さえ潰した強力な毒だ。 自分自身が死んでもおかしくはない。 死にたいわけではないが、興味があった。 俺の毒にあたった奴らはどんな苦しみを負うのか、 死ぬ瞬間はどんな感じなのか、興味が湧いた。 そっと傷口を舐める。 血の味が、口内に広がる。 個人的に、この鉄のような味は好きになれない。 でも、クセになりそうな気もする。 そんなことを考えているうちに、俺の身体に変化が起こった。 今まで生きてきた中で、正直初めて味わう苦痛だった。 内臓の全てを針に刺されたような痛み、 熱気と寒気が体中を巡り、嘔吐感がこみあげる。 脂汗が流れ、心臓が飛び出してしまいそうなくらいに ドクドクと脈打ち、はちきれると思うくらいまで高まった心臓は 空から急降下するように止まり、俺は仰向けに倒れた それと同時に闇が広がった。 死ぬ瞬間というものは・・・・実に味気ない 闇が薄れ、空がすみれ色になりミルク色の光が差し込むとき 俺は目を覚ました。 なんてことだ。 まさか生き返るなんて・・・・ 俺は死ねないなのか?? 永遠に毒を振りまけというのか?! 「ちくしょうっ・・・・!」 別に死にたかったわけじゃない。 だけど、 : : 死ねない辛さというのが、身を刻む しかし、死ねないのなら仕方ない。 この世界に毒を撒き散らしてやるさ・・・ 一先ず街にでも下り、食料でも買い足そうと思った。 昨晩の出来事は、やはりかなりの体力を消耗した。 ・ ・・・そういえば、腹が空くのだから ひょっとして、餓死することが出来るのだろうか? でも嫌だな。餓死は苦しそうだし。 少しフラつく身体で、街に向かって歩き始めた。 そのとき、俺の目にある少年の姿が映った。 小柄な身体に全くあっていない、かなり大きな白衣をまとった少年。 白衣がずり落ちて剥き出しになった肩、白衣の裾から 除き見える足から、そいつが白衣以外を着ていないのが予想できた。 しかし、それよりも何よりもまず俺の興味を引いたのは そいつの肌の色だ。 俺と同じ青い肌 まだフラつく身体に鞭を打って、 俺はそいつの所にまで走った。 おい!と、声をかけ、そいつの肩を引っ張る。 俺よりも頭一つ分くらい小さな背丈。華奢な身体。 あまりの細さに、壊れてしまうかと一瞬思った。 「お前!研究所にいた奴だろ!?」 「けん・・・きゅうじょ・・・」 紅い眼。 間違いない、こいつは俺と同じ実験体だ。 しかし、どうしてこいつは生きているんだ? 毒を持っているようには見えないし・・・・ ついさっき研究所から逃げ出したような格好だ。 「キミも、なの?」 見た目は14,5はいっているのに、 喋る言葉は小さな子供を連想させた。 しかし今はそんなことより・・・・ 「やっぱり、お前も実験体の一人か!」 「う、うん」 まさか、仲間に逢えるなんて思わなかった。 生き残りは俺しかいないと、思っていたから。 それから、よくよくコイツの顔を見ていると、思い出した。 俺が連れてこられた同時期くらいに、連れてこられた 小さな小さな子供 大声でわんわん泣いて、部屋の隅でうずくまって 誰かの名前を呼んでいた。 なんとなく、気になって仕方なかった あの子供。 雰囲気が変わったとはいえ、面影が残っている。 「そっか、生きてたのか・・・」 どことなく、安心した。 「ねぇ」 「ん?」 俺の服の裾を引っ張りながら、今にも泣き出しそうな顔で 俺を見上げる。 「きみには、カゾクいる?」 家族…?そういや、いたっけ? アレ、どうだっけ・・・・ 全く思い出せない 「いや、いないケド…」 嘘の返事。 どうせ思い出せなくったって、困ることではないし。 「僕ね、よく覚えていないんだけど・・・おにいちゃんがいたの スゥおにいちゃんって、よんでて…でも、もうこんなんじゃ おにいちゃん、会ってくれないよね?僕のこと、キライだよね…っう」 ついに泣き出してしまった。 参ったなぁ。こういうのって、苦手なんだよ。 俺のことなんかお構いなしに、泣き崩れるこいつ。 子供の泣く姿は嫌だ! 忘れていた良心を締め付けられるようで。 「おい、泣くなって!おいっ、代わりに俺がお前の兄ちゃんになってやるよ!!」 「っ・・・ほん、とう?」 「ああ!だから俺のこと、スゥ兄ちゃんって、呼べよ」 「いい…の?」 何度も首を縦に振る俺。 我ながら、なに血迷ったこと言ってんだよ。 ったく… 「え、と。えっ…と、スゥにい、ちゃん?」 「あ、ああ」 「スゥにいちゃん!」 泣笑いな表情で俺の胸に飛び込んできた。 俺にしがみついたまま、離れず。 何度もその兄の名を呼びながら、泣いていた。 恐らくこいつの家族は、こいつを家族とはもう認めないだろうな 毒を持っている感じもしないし、きっと失敗作がたまたま生き延びただけだろう こいつはこのまま、生きていても無意味なだけだ 生きていても、苦しむだけだ。 俺はそっと、こいつの背に手をまわした。 「スゥにいちゃん…?」 苦しむだけなら 楽にしてやろう・・・・ この哀れな子を 俺は柔らかな草達の上にこいつの身体を押し倒した。 |
―to be continue― |
スゥちゃん初登場です。 しばらくはこの二人を中心とした話になります。 背景画像は「Little Eden」様より。 +BACK+NEXT+ +CLOSE+ |