ワカラナイ
判らないんだ…
判らないんだよ!!
ねぇっ、僕はダレ?!
ダレなのっ!!
誰か教えて!!助けてよぉ・・・・
[―始まり―]
あれはいつだっけ?
僕はまだ小さな子供だった。
木造で出来ていた。
小さな小さな家。
家族は・・・・いたっけ?よく覚えていない。
僕は木で出来ているテーブルに掛けて
豆のスープかな?トウモロコシのだっけ?
とりあえず、スープを飲んでいた。
そしたら、急に扉がバン!!って、凄い音たてて開いた。
何人かの大男。僕を囲んで、腕を掴んで、どこかに連れて行った。
怖かった…本当に怖かった。
誰かに教えてもらった、血を吸う魔物よりも
誰かに聞かせてもらった、狼の影を持つ化け物よりも
怖かった
むしろ、そんな魔物たちにすら助けてもらいたくなった。
それ位あの時は
泣きたかった
何をされていたのかは、覚えていない。
何をしていたのかも、記憶に無い。
目の前には、ただ一面の闇が広がっていた。
僕は光が欲しかった、見たかった。
ゆっくりと、瞼を開いていった。
目の前に広がったのは、闇よりは青黒く明るい闇と
瓦礫や煉瓦で造られている、実験室のような部屋だった。
僕は実験用の台の上に寝かされていた。
手を何度も握りながら、身体を起こしていく。
自分が生きている事に凄く安心した。
確認するように、手を見たら・・・・・
叫びたくなった。
「あ・・・あ、青っ…!?」
青い肌!?自分の身体を見回してみても、至る所が青かった。
よく見ると、少し透けている…?
慌てて台から降りて、部屋を見回す。
壁にひび割れた鏡が掛けてあった。
恐る恐る、鏡に歩み寄る。部屋の青暗さが、僕の肌をこんな色にしている。
そう何度も言い聞かせながら。
いざ鏡を目の前にしたら、自分の姿を見る前に反射的に目を閉じてしまった。
怖い
どうしようもなく怖いよ…
誰か…傍にいて…っ!
でも、そんな悲鳴は自分の心をむなしく締め付けるだけと感じ
意を決して、硬く塞いだ眼を開けた。
今度は完璧に叫んだ
大声で、耳障りな位大声で叫んだ。
音が大きすぎて、何も聞こえないようで
聞こえる奇妙な感覚の悲鳴がその部屋に響き渡った。
青くやや透けている肌、赤い眼、しかも
ナニ!?この左眼、確かに右と一緒で赤い。
でも、水晶体?瞳孔?が金色で、それが眼の奥で狂気の色を浮かばせている。
もう何が何なのか、全然判らないっ!
言いようの無い恐怖や不安が、巨大な重圧となって押し潰しに来る。
耐えられなくて、涙が頬を伝っていく。
「・・・・っけて!」
引きつけを起こした声で、精一杯口に出した言葉は
「たっ・・・す、けてぇっ・・・・!」
なにを助けてほしいのか、ワカラナイ
誰かに助けを求めたって、どうにもならないのに
だって
ここには、誰もいないんだもん
僕は冷たい床に、この異質な身体をうずくめた。
すすり泣く声が漏れ、狭い天井に響き渡る。
ずっとその場で、泣き崩れていると部屋の冷たい空気が
徐々に、混乱して熱をもった僕の頭を冷やしてくれた。
もう一度立ち上がり、目をそむけながらも鏡の前に立つ。
鏡の前にいる少年はもう、15、6歳はいっている。
麻痺した記憶が一瞬、ハヤブサのように脳裏を過ぎった。
あの頃の僕はまだ、4,5歳のハズじゃ・・・
時間の流れが嫌でも理解できた。
僕は約十年間も死んでいたんだ・・・
部屋を再度見渡す。だんだん落ち着いてきた。
多分ここは実験室。ううん、絶対そう。
プンと、異臭が鼻をついているのに、ようやく気づいた。
胸がムカムカして、胃液が逆流しそうな匂い。
腐敗した・・・・の匂い
ひょっとして、ここは…
死体置き場?
またゾッとしてきた。
よくよく見渡すと、部屋の隅には無数の骨や
溶けている途中の肉片みたいなのが、散らばっている。
「やっ・・・いやぁっ・・・」
また怖くなって、出入り口がないか周りを見渡す。
上に続く階段があったから、急いでそこまで走った。
足の裏にその肉片がべちょっと、ついても気にせず走った。
肉片のせいで、階段を上る足が滑った。
まるでこの部屋にとどまっている亡霊が、彼を引き戻すように。
一瞬、階段から転落しそうになった身体をなんとか引き戻し
再び階段を駆け上る。
鉄製の扉のようなものが、目の前の現れた。
滑る足になんとか踏ん張りをきかせ、扉を押す。
ギギギ・・・と、サビがついているような重苦しい音と
ともに扉が開いた。
再び腐敗臭が鼻をついた。
ここは、まともな姿で死んでいった白衣の骸骨ばかりだった。
何人かの骸骨の細長い手には何枚もの書類が握られている。
ここで死んでいったのは、よほど研究熱心な骸骨ばかりなのか?
それにしては、数が多すぎる。
恐る恐る骸骨の手にある書類を取って読んでみた。
これでも、4,5歳の頃は神童と呼ばれるくらい
頭はよかった。あくまで4,5歳の頃だけど。
やはり読めない字がいくつかあったが、なんとか前後の繋がりなどで
必死に解読すると、ここでは人間兵器の研究をしていたのがなんとか判った。
その続きを自分に言い聞かせるように、解読したたどたどしい文章を
声に出して読み上げた。
「しかし、ほとんどの…しっぱい、下のへや、おく、しかし、きせき、
ゆいいつの、せいこう、サンプルおめが、まわり、どく、ふりまく・・・・??」
やっぱり、読めたのは少し。
でも、自分が失敗作なのは判った。
しかし、たった一人だけ成功品がある。
それが、ここの人たちを?
ここを生きて出て行った【サンプルおめが】
「僕の…なかま、きょうだい?」
途端、また記憶の風がよぎった。
一瞬見えた、シルエット。
その影はどこか、懐かしかった。
「おにいちゃん…?」
たどたどしい記憶を甦らせる。
少し、頭がイタイ。
「スゥ…おにいちゃん?」
そうだ、僕には兄がいた。
でも、僕は―ばけもの―になった。
きっと、もう逢えない、逢ってくれない。
少し熱くなった目尻を押さえた。
寒気を感じ、自分が裸だったというのを思い出した。
骸骨から服を取るのは、気が進まなかったから
側にあった、変色しかかっている棚を開けてみた。
運良く服が入っていた。
しかし、入っていたのは丈の長い白衣だけ。
とはいえ、何も着ないよりはマシと思い。
ぶかぶかの白衣をまとった。
余程サイズが違うのか、肩の部分が落ちてきて
肩が剥き出しになってしまう。
おまけに腕のほうも袖のほうが長くて、びろーん。ってなってる。
なんとなく、悔しい。
とはいえ、一応服は手に入ったし。
ここにいる必要も無い。
さっさとここから離れようと思った。
この時、彼は気づいていなかった。
目の色の変化・青く透けた肌・それ以外にも変化があったことに
彼の泣いた跡には、透き通るような蒼い石が落ちているのを知っているのは
失敗作の肉片と骸骨だけだった。
―to be continue―
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